[]歪み(ひずみ)を味方にする
チーフ・エンジニアの森崎です。
音には2種類の歪み(ひずみ)が存在します。
耳に心地いいアナログ系の歪みと耳に痛いデジタル系の歪みです。
アナログの歪みはアンプをオーバーロードさせた時に、
真空管機材などではインプットレベルを上げた時に生じます。
わずかな歪みの場合は歪んでいると聴いた瞬間に分からないかもしれません。
それに対してデジタルの歪みはバリバリというような、
耳に痛い歪みです。
こちらは音楽的ではなく耳につくのですぐに分かります。
工事現場の重機やF1のエンジン音など、
歪みのある音というのは人の耳には大きく聴こえます。
この仕組みをマスタリングに応用することが出来ます。
車のボディーカラーなどの色の調合では白の発色を良くするために、
わずかな量の黒をまぜます。
実際の白は黄色みがかって見えますが、
黒を入れると明るい白に見えるようになります。
例えばヴォーカルなどを他の楽器よりもほんのわずか持ち上げて、
ヘッドアンプの入力レベルを微妙に調節することで、
耳に分からないように歪ませます。
聴いた感じでは歪んでいるというよりも抜ける、はっきり聴こえる、
逆に透明感が出たように感じます。
このテクニックはレコーディングの現場では昔から行なわれています。
一番多く使わているのはマイクロフォン、マイクアンプのインプットゲインの調節です。
レコーディングでは目的に向かって積極的に行なわれるのに対して、
マスタリングではもう少し細かいニュアンスを表現するために応用出来ると思います。