[]守屋純子オーケストラ「Into The Bright Decade」/5.6MHzDSDマスタリング@サイデラ・マスタリング
定価:2,520 円(税込) / 発売日:2012/1/18
品番:SOL JP-0012 / POS:4562263550525
(パーソネル) 守屋純子:ピアノ、作・編曲
Tp: エリック・ミヤシロ、木幡光邦、奥村晶、岡崎好朗
Sax: 近藤和彦、緑川英徳、小池修、アンディー・ウルフ、宮本大路
Tb: 片岡雄三、佐藤春樹、東條あづさ、山城純子
B: 納浩一、D: 大坂昌彦、Perc: 岡部洋一
(録音年月日) 2011年 9月28日&29日、サウンド・シティーAスタジオ
リミッターなし音源を5.6MHz DSDに、KORG MR-2000Sでプレイバック
森崎:音源をエンジニアの岡部潔さんより預かりました。リミッターありとなしの2種類のバージョンです。リミッターなしの方が良いですね。
守屋純子:私もね、そう思う。なしの方がいい。リミッターをかけちゃうと、エリックさんのハイノートや、大路さんの低音がちょっときれいに整い過ぎてしまう。例えばポップスとかの商品だったらそれでもいいと思うんですけど。今回はジャズファンのために(演奏の表情を重視して)仕上げたい。心配はないでしょ(笑)。
森崎:そうですね。トレードですけど、リミッターがかければ太い音の荒さが損なわれています。音がきれいに均されて。
守屋:岡部さんも(リミッティングは)マスタリングの時にやって欲しいとおっしゃっていたので、そのつもりでミックスして下さったと思います。ところでいま鳴っている音は?
森崎:これはリミッターなしのバージョン。KORG AudioGateでDSD 5.6MHzにアップコンバートしてKORGのMR-2000Sです。
守屋:ベースとかもすごく良い音していますね!
森崎:音量確認のためにリミッターありのレベルの入ったバージョンと比較してみましょう。
守屋:リミッター入った方は過度にきれいになっちゃっていますね。絶対に(リミッターなしの)こっちです!絶対にこっち!
森崎:では、これですすめましょう。
基準レベルで質感が決まる
森崎:次に音量レベルをどこまで入れるか。先ほどのプレイバックより1dB下げてみました。
佐々(スパイスオブライフ):ベースのところをもう一度聴かせて頂けますか?ベースのふくよかさなどはこちらの方がありますね。
森崎:岡部さんから、スウィングジャーナルのゴールドディスクもらえる音にして欲しい!とリクエストされているんです(一同大笑い)。レベルを下げた方が躍動感もあるし、楽器の鳴りがいいです。
守屋:岡部さんそんなところ狙っているですか?スウィングジャーナルはもうないけど(笑)。
佐々:レベル下げの方がいいですね。
森崎:ジム・アンダーソン氏が録音した前作と比較してみましょう!
守屋:音質も近いね!
森崎:前作はおそらくPCMで再生してマスタリングしているはずです。
守屋:DSDの方が生っぽさを感じます。
森崎:DSDアップコンバートをマスタリングで使っているのは、おそらく世界でもオノと僕ぐらいです。オノがマスタリングしたVERVEのシリーズは現地にDSDレコーダーを持ち込んで6mmのオリジナルマスターをアーカイブした音源からマスタリングしました。DSDレコーダーはアナログのマスターテープのニュアンスまでそのまま録音出来るんです。
佐々:1dBの違いっていかがですか?
森崎:プラス1dB入れた方が若干ですがアナログ機材の歪み成分でガッツが出るというか、派手に聴こえますね。
佐々:下げた方は、まとまりがあるというか、ナチュラルに聴こえますね。
森崎:音量レベルで質感が決まります。つまりマスタリング最初の1曲の音量レベルの設定はとても重要です。逆にこれが決まってしまえば他の曲は微調整でマスタリングが出来ます。もしオーディオファンの方をターゲットにするなら1dB下げです!
守屋:そうなんですか?
森崎:ジャズのリスナーの方は自分でボリュームをコントロールしてくれるので音量レベルは問題ないんです。ヘッドフォンステレオなどで聴く方をターゲットにするなら大きい方がいいです。
佐々:そうだよね。
守屋:どちらを対象にするかですね。
佐々:オーディオ専門誌でということになるとレベル下げですね。
守屋:私の音楽を聴いて下さる方はどちらかといえばオーディオファンのお客さんが多いと思います。もちろん、中高生にもぜひ買っていただきたいですが、ある程度のオーディオシステムを持っている方が多く買ってくださるかと思います。
佐々:いまCDの購買は落ちているけど、でもオーディオの人たちの購買は落ちていないんですよ。そういう方々が求めているのはいい音の作品です。
守屋:それなら音質の良いほうの1dB下げでいきましょう。
ADコンバーターのニュアンスの違いを比較
森崎:音量はこれで決まりです。次に機材の選択。機材によっても楽器のニュアンスは若干異なります。同様に1曲目でチェックしていきます。まず、こちらが最初のセッティングです。(♪視聴)それで、こちらが別のセッティングです。(♪視聴)
守屋:最初の方が割と荒々しくて生音に近くて華やかな感じで、後の方がまとまりのあるバランスの取れた音に聴こえました。
森崎:そうですね。
守屋:その通りでしょ!どっちもいいんですけどね。
佐々:これは何の違いなんですか?
森崎:ADコンバーター、アナログの信号をデジタルに変換する機材の違いです。最初の方はPrismSound ADA-8、後のはdCS 905です。ミュージシャンが楽器を替えるようにニュアンスの違いがありますね。
守屋、佐々:あるある!
森崎:どちらが好きですか?
守屋:最初の方が生音に近い感じがしました。後の方が商品としてはまとまっていたように聴こえましたがもう一度聴いてもいいですか?
佐々:僕は最初の方が好きでした。
森崎:僕も最初の方で行きたいと思いました。
守屋:最初の方にしましょうよ!後の方がおとなしいですよね。
森崎:岡部さんからもビッグバンドらしさを出して欲しいというリクエストがあったんです。
守屋:最初の方が生音に近い感じがありましたし今回の場合はこちらの方が良いと思いました。
森崎:最初の方が、音像が大きく聴こえました。音量の大きさではなく一つ一つの楽器の音像の大きさ、特にブラス系の楽器が豊かに響いているように聴こえました。ライブハウスの前列で聴いているような。
守屋:そっちの方が良いですね!
森崎:後の方は一番バランスの良い席で聴いているようなサウンドでした。
守屋:二階席ですね(笑)。
佐々:機材だけでこんなに音が変わるんですね!
森崎:モニタースピーカーをシビアに調整していますので、いわゆるレコーディングスタジオよりもわずかな差が正確に聴こえているんです。では最初のセッティングでもう一度聴いてみますね!
森崎:楽器の音の芯が分かりやすく、でも生音のように柔らかく聴き心地のいいサウンドです。
佐々:聴きやすいと言ったらおかしいですけど楽しいですよね!
森崎:楽器のアンサンブルがとても良い。特にブラスセクションのサウンドが素晴らしい!ジャズのトランペットの音は音作りが難しいんですよ。
守屋:サックスよりもですか?
森崎:そうです。サックスはどちらかと言えば人の声に近い帯域で丸みがあるのですが、トランペットが強く吹いた時に歪まずに大きく出すのはとても難しいのです。
*サイデラ・マスタリングでは下記のようなADCを使い分けています。
Prism Sound ADA-8 (DSD/PCM)
dB Technologies 4496 (M-DA824)
dCS 905(DSD/PCM)
Meitnerdesign DAC8 (DSD)
KORG MR-2000S (DSD)
EQで空気感の微調整
森崎:最後にEQで高域の微調整を行ないますね。こちらがAパターン、こちらがBパターンです。
守屋:Bの方がハイが出ているような気がしたのですが?
森崎:実はAの方がハイが出ているんですよ(笑)。
佐々:そうでしょ。
森崎:Bのほうが高域の空気感のある成分を抑えているので楽器の実音に近いところがよく聴こえるんです。Aの方は空気感を出すために16Hz辺りを少し足しています。もう一度聴いてみますね!こちらがAでこちらがBです。
守屋:生に近い方を優先するならAの方が良いですね!
佐々:そう思います。
森崎:Aでいきましょう!ブラスのアンサンブルもAの方がきれいに聴こえました。バッチリだと思います。
リミッターなしのマスタリング
(1曲目を聴き終えて)
守屋:いいと思います!
森崎:今回のマスタリングではリミッターはほとんどかけていません。
守屋:リミッターはいらないと私は思います。実際に皆さんの演奏の音がすごくいいので。たとえば、エリックさんはどんな高い音でも、決してキーっという音にならずあくまでもリラックスした温かい音のままですから。ぜひメンバー全員の生音の素晴らしさを存分に生かしたいと思います。
(♪2曲目のマスタリング作業に進む)
森崎:録音はどちらのスタジオですか?
守屋:サウンドシティーです。前2作品もサウンドシティーでやっているんですよ。サウンドシティーの自然な響きは、アコースティックなビッグバンドの録音には最適だと思っています。
森崎:2曲目も素晴らしいです。このままのバランスでバッチリです。音量レベルの調整だけして録音していきます。
DSDマスタリングと従来のPCMマスタリングの使い分け
(2曲目を聴き終えて)
守屋:とてもいいと思います。ソプラノの音が良くなったね。
森崎:DSDにアップコンバートして作業すると楽器のニュアンスの調整がとてもし易いんです。
守屋:DSDはそんなに新しい技術なんですか?
森崎:技術自体は決して新しいものではないのですが、これだけ身近に扱えるようになったのはここ数年のことです。特に今回のマスタリングで使用しているKORG MR-2000Sが出たのは2008年でで、それまでのDSDシステムに比べて性能が良いだけでなく、コンパクトになり大幅に使いやすくなりました。
守屋:それではまだDSDを使用してマスタリングした音楽はそれほど多くはないのですか?
森崎:僕は沢山の作品で使用していますが(笑)、ジャズやクラッシックのジャンルでは増えていえるとはいえ多くはないです。
守屋:それではDSDマスタリングで行なったということをうたわないといけないですね!DSDマスタリングというだけでも手にしてくれるオーディオファンの方は絶対にいますね!
森崎:DSDは生音に限りなく近いサウンドです。
佐々:最近はその方向に戻っているよね。
森崎:例えばこのトランペットの質感はPCMのマスタリングでは絶対に出せないサウンドでした。
佐々:本当にそう思います。
森崎:アナログテープレコーダーにもヒスノイズがありますから、演奏の息づかいなど、ここまで細かく表現することは出来ません。
佐々:非常に柔らかいし、滑らかですね。
守屋:ソプラノの音もきれいで太い音になっています。アップコンバートせずにPCMのままでマスタリングすることもあるのですか?
森崎:音量レベルをギリギリまで大きく仕上げる必要があるJ-POPなどのジャンルではPCMのまま仕上げることもあります。ミックスの段階でレベルを大きく作り込んである音源が多いので、その方向性のままPCMでマスタリングしています。アーティストやプロデューサーから「ミックスの段階よりもさらにニュアンスや空気感が欲しい」とリクエストがあれば迷わずDSDにアップコンバートしてからマスタリングします。
ベースのバランスについて
守屋:ベースのバランスに注意して欲しいと岡部さんから言われている曲がこの4曲目なんです。私はそうは思わないんですけど注意して聴いて欲しいと。音量の問題ではなくちょっと他の曲に比べてもこっとしているように聴こえます。
森崎:低域をほんの少しだけ補正しましょう。こちらがマスタリング前。そしてこちらがマスタリング後です。
守屋:ベースがタイトになりましたね。この曲って浅草ジャズコンテスト30周年で依頼されて書いた曲なんです。最初小さなスタジオでクインテットで録音したんですけど、浅草公会堂とか大きな会場で流れているのを聴いてこれはビックバンドの方がいいなって思ったんです。今後はこの曲が(浅草ジャズコンテストで)ずっとかかるので大きな会場でかかったときのベースの聴こえかたは重要です。
10年以上に亘って培われた質の高いアンサンブル
日本を代表する実力派ミュージシャン達の魅力溢れるソロ
そして守屋純子の作・編曲も冴えわたる待望の新作遂に発売!
タイトル曲の「イントゥ・ザ・ブライト・デケイド」は守屋純子オーケストラ10周年記念コンサートで発表された楽曲。更なる輝かしい10年に向けてという守屋純子の熱い情熱と信念が込められた作品。今回収められた10曲全てが守屋純子オーケストラのこれからを示唆する意欲的な作品ばかりとなっている。また、今回パーカッションに岡部洋一が加わり、いっそうドライブするリズムも楽しめる作品となった。
なおCD発売を記念して2月24日には守屋純子オーケストラ定期公演「Art in Motion」が渋谷区文化総合センター大和田さくらホールにて開催される。
(守屋純子ライナーノーツ抜粋)
わたしは、ジャズに限らず、音楽で最も大事なことは、<メロディーの美しさ>だと思っています。そして今作は、今までと比べても、<美しく親しみ易いメロディー>が何よりも大切、ということを特に意識しています。それは、たとえば、<It Don’t Mean A Thing><The Sidewinder><Sing Your Song>などを、ヴォーカリストの方々との共演がきっかけとなって作・編曲していることとも無関係ではないと思います。
リズム面では、何よりも、<スイング>がジャズの命だと思います。今回は、かねてより念願だった、パーカッションの岡部洋一さんに加わっていただいたことによって、より強力なスイング感・グルーブ感を獲得できたと思っています。
また、今回は3月の震災後の録音ということもあり、自然と、<日本>を意識したテーマの曲も多くなっています。浅草ジャズコンテスト30周年記念委嘱曲<Walking Down The Nakamise Street>や長谷川等伯の障壁画をテーマにした<Maple>、震災復興を願って書いた<Forever Peace>などです。
ジャズは時代・地域と共に移り変わる<生きている音楽>です。特にビッグバンドは、世界共通のフォーマットなので、今までに、わたしの作品を日本のみならず、アメリカ・フランスのビッグバンドに演奏していただく機会もありました。
世界中に良いビッグバンドはたくさんありますが、現代の日本のジャズ・アンサンブルのあり方として共感して聴いていただければ、そして、このCDの中からも、多くの社会人・学生ビッグバンドの皆様に演奏していただければ、嬉しい限りです。
(曲目順)
01.イントゥ・ザ・ブライト・デケイド/ Into The Bright Decade (Junko Moriya)
02.メイプル/ Maple (Junko Moriya)
03.フォー・ダニエル/ For Daniel (Junko Moriya)
04.ウォーキング・ダウン・ザ・ナカミセ・ストリート/ Walking Down The Nakamise Street (Junko Moriya)
05.フォーエヴァー・ピース/ Forever Peace (Junko Moriya)
06.ダンス・ア・ダンス/ Dance A Dance (Junko Moriya)
07.ザ・サイドワインダー/ The Sidewinder (Lee Morgan)
08.星影のステラ/ Stella By Starlight (Victor Young/Ned Washington)
09.シング・ユア・ソング/ Sing Your Song (Junko Moriya)
10.スイングしなけりゃ意味ないね/It Don’t Mean A Thing (Duke Ellington/Irving Mills)
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