[]「かせきさいだぁ/ミスターシティポップ」アナログ・ハーフインチを通したマスタリング
チーフ・エンジニアの森崎です。昨日発売の「かせきさいだぁ/ミスターシティポップ」のマスタリングをやらせて頂きました。このアルバムのサウンドは明確なコンセプトがあり、エンジニアのillicit tsuboiさんからのリクエストは二つありました。
1.「音の狙いは70年末のニューミュージック(ナイアガラやTIN PAN ALLEY)的な傾向だけど2012年な感じになると嬉しいです。全体音は柔らかめ(EQで柔らかくではなく、アナログに通した質感)で、レベルもそんなに入れなくて、レンジ重視でお願いします。」
2.Pro Toolsのアウトプットを一度アナログのハーフインチに通すこと
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ミックス音源は32ビット(float)/96kHzのWAVファイルで、アナログ・ハーフインチテープはtsuboiさん所有の3M 996を持込みいただきました。サイデラ・マスタリングのアナログ・ハーフインチ・テープレコーダーはSTUDER A80です。同じSTUDERのA820と比較して低域が豊かで艶のある、よりオールドテイストなサウンドがします。レコーダーは15ips(38cm/s)、250nWb/m+4dBに調整。入力レベルはVUメーターがピークで+2程度に触れるようにしました。
機材のセットアップが済んだら次は機材の選択です。Pro ToolsのアウトをRME FIREFACE UFXでDA変換してそのままSTUDER A80にインプット。普段はRMEのAESアウトを外部DAコンバータでDAしますが、今回はとてもシンプルにしました。なぜならこのアウトプットが最もナチュラルで柔らかい質感のサウンドを得ることができたからです。ケーブルはすべてCANARE L-2T2Sを使用。
またアナログ/デジタルEQの類はいっさい使用せずに音色の調整はA80の録音イコライザーのみで行いました。具体的には100Hzを1.0dB上げ、10kHzを1.0dB下げとかなり低域がファットになるイコライジングをしています。
さらに音色を微妙に追い込むためにアナログテープのテープ位置による音質の差を利用しました。アナログ・テープは何度も録音されたテープ箇所では音が鈍るという特徴をマスタリングでの色づけとして利用しています。10インチのアナログ・テープを15ips(38cm/s)で回すと約30分録音できるので、A: テープの頭、B: テープを10分送ったポイント、C: テープを20分送ったポイントの3カ所に同じ曲を録音してメンバー全員でサウンドの違いを確認しました。予想通り、これまで何度も繰り返し録音に利用されているテープ頭はサウンドが鈍り、後半のフレッシュなポイントは抜けの良いサウンドがします。そのため歌とオケを馴染ませたい曲には頭のポイントで。勢い、スピード感を表現したい曲は後半部に録音と使い分けました。作業が進むに従い、メンバーの皆さんから「森崎さんこの曲は頭で」「こちらは中間で」など指示して頂きながらのマスタリングでした(笑)。
その結果2012年版アナログサウンドを作ることができました。レベルも今時の音より5dB程度低く仕上げていますが、ファットで耳に心地よい1990年代のサウンドを目指しています。アナログ・テープ・シュミレーションのプラグインも多く出ていますが、このサウンドを再現するのはなかなか難しいと思いますよ。心地よいけど透明感があるアナログサウンドのすばらしさをぜひ体験してください。
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